■産学連携
◆岩手大学との産学連携における共同研究について
 平成17年4月から平成18年3月までの1年間、岩谷堂箪笥生産協同組合と国立大学法人岩手大学は、産学連携のもと
1)現代の住環境に適合したコンセプト及び海外輸出向けのデザインをもった岩谷堂箪笥の研究・開発
2)インターネット販売を促進するための、消費者の購買意欲が増すようなホームページの構築
を行いました。
 以下、日本デザイン学会に提出した、研究担当者である岩手大学教育学部田中隆充助教授の解説文を紹介いたします。

 ※1)の箪笥デザインはトップページのフラッシュコンテンツでご覧いただけます。
 ※2)最初に岩手大学で英語サイトの構築を行い、そのデザインに基づいて当組合において日本語サイトの構築を行いました。
名称:室内空間の「角」に設置するための箪笥のデザイン開発
(Design development of a chest to install it at the corner in the room)
開発の背景と目的
 本作品は、岩手県奥州市の伝統工芸の一つである「岩谷堂箪笥」の伝統技術を用いた箪笥のデザインである。岩谷堂箪笥は江戸時代中期からの歴史を持ち、「手打ち金具」「漆塗り」を用いた、主にけやき、桐等を材料にした木工細工で、経済産業大臣指定伝統的工芸品の指定を受けている。また、岩谷堂箪笥は嫁入り道具の一つとして日本の伝統に培われた高級家具であったが、現代の日常生活への適合性に欠けている点から需要が減少しつつある。それに伴い、次世代の伝統工芸士の担い手が減ることへの不安感から、デザインを再考する必要があると考えた。本開発は上述の岩谷堂箪笥の伝統技術を守った中での日常の生活空間に適合性のある箪笥のデザイン提示と、その試作、展示・販売を試みた。
一般的な箪笥の問題提起と提案
 岩谷堂箪笥を含む、一般的な箪笥は引き出しや引き戸が1面(前面)のみで設計されており、両側面は使い手にとって機能をもたない。さらに、一般的な室内空間は90度の角で直面的に構成されている。室内の角に上記の一般的な箪笥を設置した時、片方の側面は壁に接し隠れるが、もう一方の箪笥の側面はデットスペースとなり、使い手はその箪笥の面にカレンダーやメモ等を貼付けている現状があり、作り手である伝統工芸士にとっては意図としない使われ方である。また、引き出しが重なることで、連続した2段の引き出しを同時に引き出すと、下段の引き出しが使いにくい欠点がある。そこで、壁面に接しない側面にも引き出しや引き戸を設けることで、使い手がより有効的な収納機能を活用できると考えた。また、多面的に引き出せる家具の構成は数多くのデザインバリエーションの可能性があり、今後の岩谷堂箪笥の製品企画やデザインに大きな展開が見いだせるものと考えた。本作品は試作を経て、引き出し同士の大きさや生活空間で必要な引き出しの個数等を考慮し箪笥を制作した。
 試作においては、実際にどの程度の技術とコストがかかるかを確かめることと、生活において実用性があるかを、箪笥のサイズや引き出しやすさ等を展示会(2005岩谷堂箪笥展)において使い手にアンケートを行い確かめた。その結果、全体のサイズ(特に高さ)を低くすること、日常生活においては、小物の収納用途が増えていることから、引き出しを増やし、小物の収納に特化したデザイン案を提示した。さらに、左右の引き出しの奥行きのサイズの組合せも考慮した。引き出し同士の角が接するデザインを制作するために、レールの高さを最小限にしなければならない。また、引き出しでない板面は箪笥本体の強度を保持する柱的な役割もするため、伝統工芸士の正確な寸法での木工技術を要求される。
本作品の特徴
 本作品は、現有の箪笥の収納能力と同じでありながら、多方向から収納物を引き出せることが大きな利点である。さらに、上述したように、技術的に既存の箪笥とは異なり、伝統工芸士の技術が発揮できるデザインを考えた。これらの技術により、引き出し同士の角は完全に接することができ、箪笥のもつ体積を最大限に活用した収納空間として示すことができた。また、箪笥全体はキューブ状で構成されているため、匡体と引き出し部分の漆の塗りの回数をかえることで、リズム感を試みた。

・本作品は、岩手県奥州市の藤原の郷で行われた、第3回岩谷堂箪笥まつり(2006年2月18日〜20日)と銀座で行われた岩谷堂箪笥展示会(2006年4月1日〜4月10日)で展示およびプレス発表され、実際に販売した。
・本作品は産学連携における共同研究の一環として研究開発した。