■伝統的工芸品について
 古い歴史をもつ岩谷堂箪笥は昭和54年、岩手県の推薦をうけ伝統的工芸品産業振興法の認定を申請しました。以来3年間の厳しい調査・審査をうけ昭和57年3月5日その伝統的意匠、材質、組立工法、手打金具の技法、漆塗装等総合的な技術が認められ承認されました。
 歴史ある重厚な気品と意匠、研ぎぬかれた技術を皆様のお手許に、そして後世に伝えるべく努力してまいりたいと存じます。
◆伝統的工芸品とは
 日本の風土と歴史のなかで育まれてきた伝統的工芸品の数々は、永く日本人の暮らしに密着した生活用品でした。これらは、天然の原材料を使い、伝統的技法を駆使した手作業により、真心を込めて作り出されたものです。またそれだけにこれを使う人々も長年の間、慈しみ愛用してきました。
 戦後の経済の高度成長に伴い、機能重視の大量生産製品が私たちの暮らしのすみずみまで入り込んできました。しかし、日常よく用いる実用品だからこそ、愛着のもてる物、安らぎを感じられる物、潤いをもたらす物を求めずにはいられないのではないでしょうか。
 このような時代の流れの中で、機能面はもとより、精神面でも質の高い製品が望まれてきたのです。
 使う側の要求が高まる一方、作る側は多くの問題を抱えています。
 伝統的工芸品の大きな特徴は、手作りに頼るということです。しかし、この手工性は戦後の機械化を柱とする近代化、合理化の経済発展にはなじめませんでした。
 さらに、伝統的手工技術の継承は、一朝一夕にできるものではなく、地味な忍耐と努力を裏付けとする長期間の修行によって始めて体得できるものです。これは、若者の都市志向、近代産業志向とあいまって、深刻な後継者難を生み出しました。
 また、原材料の確保難、流通の近代化の遅れなどの問題に直面し、伝統的工芸品産業は衰退の道をたどることを余儀なくされることも考えられます。
 一度、伝統的技術の継承が絶えれば、再び貴重な伝統的工芸品が甦ることは不可能です。事実、産業として成立する基盤を失い、滅びていった伝統的工芸品も少なくありません。
 民族文化の保存維持という観点からは、従来より「文化財保護法」に基づき対策がとられてきましたが、この対策はあくまでも文化保持に必要な部分に限られており、庶民の生活用品の供給を担う産業の振興対策とは、守備範囲がおのずと異なります。
 産業的側面からは、一般的な中小企業対策がありますが、これは機械化、近代化対策が主で、手工性を生命とする伝統的工芸品産業には活用が難しいのが現状でした。
 そこで、国の政策としてこの伝統的工芸品産業の特質に見合った振興対策が必要と考えられるようになりました。
 このような背景を踏まえて、五党共同提案によって制定されたのが「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」(略称「伝産法」)で昭和49年5月25日に公布されました。
 この伝産法に基づき経済産業大臣が指定するものが「伝統的工芸品」です。
◆伝産法の改正
 「伝産法」が制定されてから既に30年以上が経過しましたが、その間、伝統的工芸品産業を取り巻く状況には大きな変化が生じております。国民の間には、生活の中にゆとりを求める心、真の豊かさを求める思いが生まれるなど新たな光がみられる一方で、社会、経済環境の変化による従事者の減少と高齢化が確実に進み、伝統的工芸品産業の産業活力が低下し、このままの状況が続けば、近い将来その存立さえ危ぶまれる状況にあります。
 このような背景の下、平成3年、経済産業大臣から審議会に対し「新たな伝統的工芸品の在り方」についての諮問が行われました。
 審議会は、この諮問を受けて審議を重ねた結果、伝統的工芸品産業を次のような役割を持つ重要な産業であると位置付けて、法改正を含めた新たな振興施策の必要性を提言しました。
1.
ゆとりと豊かさに満ちた国民生活実現に貢献する生活文化産業
2.
21世紀に向けた新たな産業展開のニーズを提供する産業
3.
特色ある地域づくりや地域活性化に貢献する産業
4.
我が国産業の顔として我が国産業文化を印象づける産業
 国は、こうした審議会の答申を受けて法律改正を行い、平成4年に公布施行されました。
◆伝統的工芸品の条件
 「伝産法」の対象となる「伝統的工芸品」には、次の6つの要件が必要です。
  1. 工芸品であること
  熟練した技を必要とし、芸術的要素をも備えたものです。
  2. 主として日常生活の用に供されるもの
  一般の人々の日常生活に使用されるものですが、かなり範囲は広く、例えば冠婚葬祭、節句のように一生に、あるいは年に数回の行事でも、日本人の生活に密着し、一般家庭において行われる場合は「日常生活」の範囲と考えます。
また、人形、置物なども普段の家庭内にあって安らぎと潤いをもたらすところから、「日常生活の用に供するもの」と考えられます。
ただ、特定の人や職人だけが使うような道具などは該当しません。
なお、いわゆる美術工芸品は実用価値よりは美術的価値がより評価されるもので、実用の価値が相対的に低下しているため、ここでいう「日常生活の用に供するもの」には含まれません。本来、美術的工芸品は、作者の美意識の発露、その結晶として作成されるものなので、産業として捉え、振興対策するものとは次元の異なるものなのです。
  3. 製造過程の主要部分が手工業的
  伝統的工芸品の持ち味と、その手工業性は切り離せない関係です。伝統的技術を生かして機械化を進めたとしても、その結果、手工業性が失われ、本来の持ち味が消えてしまっては、本末転倒です。
従って、手工業的とは、持ち味に影響のない補助的工程は別として、その主要工程を手作業で製造することをいいます。なお、その際補助的な道具を用いることもあります。
  4. 伝統的技術または技法によって製造
  「伝統的」とは“100年の歴史を有する”ことを意味します。
この場合でも、100年前の技術や技法をそのままではなく、それらが受け継がれてきた間に、改善、発展があったとしても、それが根本的変化、製品の特質を変えるまでに至らなければ、伝統的技術、技法に含まれます。
  5. 伝統的に使用されてきた原材料
  製造技術とともに原材料も伝統的工芸品の持ち味に重要な関係があります。ここでいう「伝統的」も、前と同じく100年の歴史を意味します。主たる原材料は当然、天然のものとなりますが、現実には既に枯渇したものや入手困難なものがあり、その際には持ち味を変えない範囲で同種材料へ変えることもあります。
  6. 一定の地域で産地形成
  一定の地域においてある程度の人々(10企業以上または30人以上の従事者)が、その製造を行い、携わっていることをいいます。いわば、ある程度の規模を保ち、地域産業として成立していることを意味しています。
 以上の要件すべてを備え、伝統的工芸品産業審議会が認めたとき、経済産業大臣は、「伝統的工芸品」の指定を行います。
◆伝統的工芸品の表示
 経済産業大臣により指定を受けた伝統的工芸品は個々の商品に“経済産業大臣指定伝統的工芸品”という表示ができます。
この表示はそれぞれの製造業者が単独で行うのではなく、伝統的工芸品製造者の協同組合等が行います。この場合検査方法、検査基準等の検査規程について経済産業大臣の認定を受けなければ表示できません。この検査は経済産業大臣が伝統的工芸品として指定した内容(伝統的技術、技法、原材料及び製造地域)にあっているかどうかを検査します。従って、この検査に合格し、“経済産業大臣指定伝統的工芸品”の表示がされているものは、間違いなく伝統的工芸品といえます。
◆伝統マークと伝統証紙
  1. 伝統マーク
  伝統的工芸品の表示、その他の宣伝について統一イメージで消費者にアピールするため、伝統的工芸品のシンボルマークとして「伝統マーク」を定め、経済産業大臣の指定を受けた伝統的工芸品業界全体で使用することとしています。
伝統マークは著名なデザイナーの亀倉雄策氏のデザインによるもので、伝統の「伝」の字と、日本の心を現す赤丸とを組み合わせたものです。
  2. 伝統証紙
  伝統的工芸品の表示のために、(財)伝統的工芸品産業振興協会が発行する伝統マークを使用した証紙で「伝統証紙」といいます。産地の協同組合が経済産業大臣の認定を受けた検査方法に従って検査をし、合格した伝統工芸品にのみ貼られる証紙で、「伝統誇る手づくりの証」といえましょう。
伝統的工芸品の表示は、証紙発行協同組合名が必ず明記されており、また伝統証紙には最小の小証紙を除き、全て連番による管理番号を入れ、事故の発生を防ぐとともに、仮に事故が発生した場合には、生産者まで、溯ってその責任を追及することができるようになっています。
伝統マーク